鳥取地方裁判所 昭和25年(行)20号・昭25年(行)21号 判決
原告 勝原音松
被告 鳥取県知事
被告 八頭郡上私都村長
一、主 文
本件不動産取得税賦課処分同附加税賦課処分の各取消を求める訴はこれを却下する。
原告のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は(一)被告鳥取縣知事が原告に対してなした昭和二十四年十二月二十日附納税通知書による昭和二十四年度不動産取得税金四千五百円の賦課処分は無効であることを確認する。(二)被告上私都村長が原告に対してなした昭和二十四年十二月二十日附納税通知書による昭和二十四年度不動産取得税附加税金四千五百円の賦課処分は無効であることを確認する。(三)被告縣知事が前記不動産取得税及び督促手数料十二円延滯金一千十二円合計金五千五百二十四円の徴收のため昭和二十五年五月三十日別紙第一目録記載の物件に対してなした滯納処分はこれを取消す。(四)被告村長が前記不動産取得税附加税及び督促手数料十八円延滯金一千三百四十一円合計金五千八百五十九円の徴收のため昭和二十五年五月三十日別紙第二目録記載の物件に対してなした滯納処分はこれを取消す。(五)訴訟費用中原告と被告縣知事との間に生じた分は同被告の負担原告と被告村長との間に生じた分は同被告の負担とするとの判決を求め、右(一)(二)の請求にして理由がないときはこれに換え前記各税金賦課処分を取消すとの判決を求め、請求の原因として被告鳥取縣知事は原告が昭和二十四年中に不動産を取得したと認め地方税法第八十八條により不動産取得税四千五百円を賦課すべきものと決定し、同法第十八條に基き鳥取縣八頭郡上私都村に徴税命令書を発し同村長をして同年十二年二十日発行の徴税傳令書により、右税金の納付方を原告に傳達せしめ、又同村長は同法第九十九條第十五号により不動産取得税附加税四千五百円を賦課すべきものと決定し、同年十二月二十日の徴税令書を原告に発し、右徴税傳令書及び徴税令書を兼ねた同年十二年二十日附納税通知書と題する書面は同月二十二日原告に到達した、次で被告等は更に昭和二十五年四月二十六日限りこれを納付すべき旨の督促状を発した上被告縣知事は昭和二十五年五月三十日、前記不動産取得税及び督促手数料十二円延滯金一千十二円合計金五千五百二十四円の徴收のため、鳥取縣徴税吏員高木昭三をして滯納処分として原告所有の別紙第一目録記載の物件の差押をさせ被告村長は同日前記附加税及び督促手数料十八円延滯金一千三百四十一円合計金五千八百五十九円の徴收のため村徴税吏員石谷收をして滯納処分として原告所有の別紙第二目録記載の物件の差押をさせた、よつて原告は昭和二十五年六月十六日被告縣知事に対し地方税法第二十一條第一項に基き一通の書面を以て不動産取得税賦課処分に対する異議申立同法第二十四條第二項に基きその滯納処分に対する訴願の提起を併せ行い又昭和二十四年十二月二十二日から三十日以内に被告村長に対し地方税法第二十一條第三項に基き前記附加税賦課処分に対し口頭を以て異議申立をしたが、同被告は昭和二十五年四月十八日附加税の督促状を被告に発し、右はその頃被告に到達し以て前記異議申立却下の意思表示を暗黙に行つたので同年六月十六日同法第二十一條第四項に基き被告縣知事に対し訴願を提起し、且つ附加税滯納処分に対しても同法第二十四條第二項に基き同日被告縣知事に対し訴願を提起した、ところが被告縣知事は前述の不動産取得税賦課処分に対する異議申立その滯納処分前述附加税賦課処分その滯納処分に対する各訴願に対しいずれも昭和二十五年七月十二日棄却裁決をなしその裁決はその頃原告に告知せられた、しかし原告は昭和二十四年中に不動産を取得したことはないから、これら各処分はいずれも事実の認定を誤つた違法な処分でその違法は各賦課処分の無効を招來するものであるから、その各無効の確認を求め仮に無効の程度に達しないものとすれば、右各賦課処分の取消を求め右賦課処分が違法であることは当然これに基く滯納処分の違法を來すものと解すべく、仮に然らずとするも右賦課処分が無効であると確認され、又は取消されたときは賦課処分の存在を前提とする滯納処分も違法となること勿論であるから、併せて右各滯納処分の取消を求めるため本訴請求に及んだ旨述べ、被告等の主張事実中その主張の通り許可を得て、その主張の場所に建築の着手をした事実、原告が督促状の指定期限までに税金及び督促手数料を納付しなかつた事実を認めるが、増築ではなく新築でしかも、それは本件賦課処分当時柱を立て屋根は茸いてあつたが、周壁はなく未だ不動産の域に達しない工作物であつたから課税の対象になすべからざるものであると述べた。
(立証省略)
被告鳥取縣知事指定代理人及び被告上私都村長訴訟代理人は本件賦課処分無効確認の訴につき、請求棄却本件賦課処分取消の訴及び滯納処分取消の訴につき、訴却下仮に賦課処分及び滯納処分の各取消の訴が適法であるとすれば、これらにつき請求棄却の判決及び訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め本案前の弁論として本件不動産取得税同附加税の納税通知は昭和二十四年十二月二十二日原告に到達したのにかかわらず、三十日以内に異議の申立をしないから本件各賦課処分に対する取消の訴は不適法として却下さるべく、而して又賦課処分に対する異議申立期間を徒過した場合には、その取消の訴だけでなく、その賦課処分に基く滯納処分の取消の訴も亦提起することができないと解すべきであるから、本件滯納処分取消の訴も亦不適法として却下さるべきであると述べ、本案につき原告主張の通り各賦課処分その告知納税督促滯納処分各滯納処分及び各賦課処分に対する訴願の提起訴願棄却の裁決その告知のあつた事実はこれを認めるがその余の事実を否認する。原告は鳥取縣八頭郡上私都村大字落岩二百三十五番地の自己居宅構内において昭和二十四年十月二十五日建築許可を得た上直ちに建築工事に着手し、本件賦課処分当時には木造杉皮葺二階建納屋一棟、建坪八坪縱四間横二間の建物を母屋及び土藏に接して増築(及び一部改築)していたので地方税法第四十六條、第八十八條、第九十九條第十五号、第百一條に基きこれに対し不動産取得税及びその附加税を課すべきものとし、且つ正当に本件課税額を算出したのである。故に被告等の各賦課処分は適法であつて無効でないのは勿論、取消の原因たる欠点もない。而して原告は督促状の指定期限までに税金及び督促手数料を納付しなかつたので、地方税法第二十四條に基き滯納処分をしたものであるから右滯納処分も亦適法である、と述べた。
(立証省略)
三、理 由
被告鳥取縣知事が原告が昭和二十四年中に不動産を取得したものと認め、地方税法第八十八條により不動産取得税四千五百円を賦課すべきものと決定し、同法第十八條に基き鳥取縣八頭郡上私都村に徴税命令書を発し同村長をして同年十二月二十日の徴税傳令書により右税金の納付を原告に傳達せしめ、又同村長は同法第九十九條第十五号により不動産取得税附加税四千五百円を賦課すべきものと決定し、同年十二月二十日の徴税令書を原告に発し、右徴税傳令書及び徴税令書を兼ねた同年十二月二十日附納税通知書と題する書面は、同年十二月二十二日原告に到達した事実、被告等は更に昭和二十五年四月二十六日限りこれを納付すべき旨の督促状を発した上、被告縣知事が昭和二十五年五月三十日前記不動産取得税及び督促手数料十二円、延滯金一千十二円合計金五千五百二十四円の徴收のため鳥取縣徴税吏員高木昭三をして滯納処分として原告所有の別紙第一目録記載の物件の差押をさせ、被告村長は同日前記附加税及び督促手数料十八円、延滯金一千三百四十一円合計金五千八百五十九円の徴收のため村徴税吏員石谷收をして滯納処分として原告所有の別紙第二目録記載の物件の差押をさせた事実、原告が昭和二十五年六月十六日被告鳥取縣知事に対し別紙第一目録記載の物件に対してなされた滯納処分に対する訴願前記附加税の賦課に対する訴願別紙第二目録記載の物件に対してなされた滯納処分に対する訴願を各提起したけれども、右各訴願はいずれも昭和二十五年七月十二日棄却せられその裁決はその頃原告に告知せられた事実原告が被告主張の場所においてその主張の日建築許可を得た上直ちに建築工事に着手した事実、原告が督促状の指定期限までに代金及び督促手数料を納付しなかつた事実は当事者間に爭いがない。
よつて先づ本件不動産取得税及びその附加税の各賦課処分無効確認の訴につき審案するに不動産取得税は地方税法第八十八條に基き不動産の取得に対し課せられるものであるが、同條にいわゆる不動産の取得というがためにはその取得の仕方が新築(新に独立の建物を作ること)によると増築(既存の建物に附加して建築をすること)によると改築(既存の建物を一且解体しその後に独立の建物を作ること)によるとを問わないけれども新築又は改築された建設物又は増築された部分は不動産としての体裁を備えることを要し、從つて少くも柱を立て屋根を葺き且つこれに周壁を施した程度に達することを要するものといわねばならない。ところが本件檢証の結果証人内田幸治、同石谷收、同勝原周藏の各証言、原告本人の供述を綜合すれば本件賦課処分当時においては原告の着手した前記建築の進捗状態は單に屋根を葺き、且つ柱を立てた程度であつて、外壁は未だ備わらないものであつたことを認めるに十分である。そうするとこれは未だ不動産としての体裁を整えるに至つていないといわねばならないから、それが新築であるか増築又は改築であるかを判断するまでもなく、不動産取得税の対象たるに適しないものというべきである。この認定をくつがえし右建設物が不動産と称し得る状態に達していたことを認めるに足る何等の資料もない。尤も公文書であることに徴し、眞正に成立したことを認め得る乙第一号証同第二号証の一、四を綜合すれば本件賦課処分当時において原告が本件建設物を堆肥及び農具置場として利用していたことを認め得るけれども、この事実により右建設物が不動産であると認めることはできない。蓋し民法上不動産についてなされる行爲の効果と動産についてなされる行爲の効果との間には著しい差異があるのであるが不動産と動産との区別につきその利用目的現在又は過去の利用状態の如き事実をも参酌して決すべきものとすればその分界は不明瞭となり、取引の安全を害するに至るべきが故に民法上不動産と動産との区別は当該物件自体の備うる状態によつて決すべきものと解釈しなければならない。而して地方税法第八十八條にいわゆる不動産は民法上の不動産の語を借り來つたものであつて、民法上の不動産と同一意義に解するを相当とするからである。そうすると右不動産取得税の賦課処分は未だ不動産の域に達しない建設物を対象としたものであるから違法というの外はない。しかし行政廳が既に屋根を葺き柱を立てた程度に達した建設物を不動産たる建物であると誤解又は誤認するが如きは決して重大なる過誤とはいい難く、もしこの程度の過誤に基き行政処分をなした場合にこれを当然無効とするときは行政処分取消の訴の出訴期間又は予め訴願を経べきことにつき規定を設けて法的安定を計つた法の精神は沒却されるに至るであろうから、このような行政処分は取消され得るにとどまり、当然無効となるのではないと解すべきである。よつて本件不動産取得税賦課処分は当然無効とはいい難く、從つて不動産取得税の存在を前提としてなされるその附加税の賦課処分も亦有効であるといわねばならない。よつて原告の本件各賦課処分に対する無効確認請求は失当である。
次で不動産取得税賦課処分に対する取消の訴につき按ずるに原告が右賦課処分につき徴税令書の交付を受けた日が昭和二十四年十二月二十二日である事実は前記の通りで、昭和二十五年六月十六日これに対する異議申立を被告縣知事に提起した事実は成立に爭いのない甲第五号証により認め得るけれども、その異議申立は法定の徴税令書の交付を受けた日から三十日の期間を経過してなされたものであるから、特に被告縣知事においてこの点を宥恕して実体的の判断をしない限り不適法であるというべきところ成立に爭いのない甲第六号証によれば被告縣知事は期間を徒過してなされた不適法の異議申立であるとの理由でこれを却下した事実が認められるから、右異議申立は結局不適法というの外なく從つて本件不動産取得税賦課処分取消の訴は訴願前置主義に反するから不適法である。
次で前記附加税賦課処分取消の訴の適法性につき按ずるに原本の存在及びその成立につき当事者間に爭いのない乙第五号証によれば上私都村税賦課徴收條例第四十四條において地方税法第二十一條第三項の規定により異議の申立をしようとする者は申立書を提出しなければならない旨規定されているのに、原告は徴税令書の交付を受けた昭和二十四年十二月二十二日から三十日以内に口頭を以て異議を述べたにとどまり、書面により異議申立をしなかつたことは原告の自認するところで、且つその後も異議申立をしたと認めるに足る何等の証拠もないから附加税賦課処分取消の訴も亦訴願前置主義に反し不適法である。次で本件各滯納処分取消の訴の適法性につき按ずるに本件各滯納処分が昭和二十五年五月三十日になされたが、それに対し同年六月十六日被告縣知事に訴願を提起したことその訴願が同年七月十二日棄却されたことは前記の通りで、且つその訴願提起期間は滯納処分の日から六十日以内と解すべきである(訴願法第八條)から適法な訴願手続を経たものというべく、その後六ケ月以内である昭和二十五年八月十二日本訴が提起されたことは訴状に押されてある。受附印に徴し明白であるから、右訴は適法であるといわねばならない。被告は賦課処分の取消の訴が訴願前置主義に反するため不適法であるときは、滯納処分取消の訴についても不適法として却下さるべきである旨主張するけれども賦課処分と滯納処分とは別個の行政処分であるから、その各取消の訴の適法性は各別個に判断すべきである。故に被告のこの主張は採用しない。よつて各滯納処分取消の訴の本案につき按ずるに原告が督促を受けながら指定期限までに前記税金を納付しなかつた事実は前記の通りであるから、その徴收のためにする本件各滯納処分は適法であるといわねばならない。よつて右各滯納処分の取消を求める原告の本訴請求は失当である。
原告は賦課処分が違法であるときはこれに基く滯納処分も亦違法となる旨主張するけれども、賦課処分と滯納処分とは全然別個の手続に属する行政処分であつて両者の関係は同一手続中の各段階を構成する各行政処分(例えば農地買收手続における買收計画と買收処分)間の関係とは異るから、賦課処分の違法が当然滯納処分の違法を招來するものとはいえない。よつて原告のこの点の主張を採用しない。
よつて結局原告の各賦課処分無効確認請求はこれを棄却し、各賦課処分の取消を求める予備的の訴はこれを却下し、各滯納処分取消請求はこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決した。
(裁判官 大賀遼作 大倉道由 柚木淳)
(別紙目録省略)